思想系・音楽文化論系フリーター・平井玄の書評ブログ : 『池田学画集1』池田 学(羽鳥書店)
この写真のように、印刷物の階調(色の濃淡)は、色のついた点々の集まりで表現されている。通常、モノクロ印刷はブラック・インキ1色、カラー印刷はCMYKの4色なのだが、濃淡は点々の大きさや密度で、さまざまな色は4色の組み合わせで表現される。印刷しているのはたった4色なのだが、目の錯覚(たとえばシアンとイエローが入り交じればグリーンに見える)を利用することで、フルカラーに見せかけているのだ。
写真左図が一般的なスクリーン線数、175線のカラー印刷物の拡大写真である。色のついた点々が網目のように等間隔に並んでいるのがわかる。これらの点々を網点という。
スクリーン線数とは印刷の細かさを表すもので、同じ色の点を一直線に並べたとき、1インチ(2.54cm)の中にいくつの網点が並ぶか、を示したものだ。単位は lpi(line per inch)で、175線(175 lpi)は、1インチに175本の線を引いた間隔に網点が並ぶという意味だ。「網点」なのに「線数」というのは、昔、多数の細線を縦横に交差させたガラス・スクリーンを使って網点を生成していたことからきているらしい。
真ん中の図は250線の網点の拡大図だ。当然線数が上がるほど細部まで印刷再現が可能になる。
左図や中図のように、規則的に網点を並べ、網点の大小で階調を表現する方法をAMスクリーニング(Amplitude Modulation Screening)という。印刷業界では、AM300線以上で印刷されたものを、特に「高精細印刷」と呼んでいる。
一方、右図のように一見ランダムに微細な点(ドット)を配置し、その疎密によって階調を表現する方法をFMスクリーニング(Frequency Modulation Screening)という。要はラジオのAMとFMの違いと同じである。
これらAM、AM高精細、FMにはそれぞれ一長一短がある。私が持っているイメージを挙げてみると、通常のAMは、色も含めた印刷の安定性がある。AM高精細印刷は、細部の再現に加え微妙なグラデーションがじつに綺麗に出る。FMはとにかく細部の再現性に優れ、モアレも出ない、等々。印刷物を作るさいには、このような特性をふまえ、絵柄の内容や紙の特徴などに合わせて製版技術(印刷用のハンコを作る技術)を使い分けるのが望ましい。ここで『池田学画集1』の話に戻ろう。
池田学氏の細密画を印刷で再現するには、どの方法がベストだろうか。ここまで読まれた方はもうおわかりだろう。
この画集はFMスクリーニングで製版・印刷されている。通常のAM175線では抜け落ちてしまう原画の細かな階調まで、微細なドットの配置が拾い上げているのだ。
たとえばp. 24の「再生」という作品を見てみる。海に沈みすっかり朽ち果てた戦艦とおぼしき物体が、色とりどりの珊瑚などで覆われ、その周りを様々な魚たちが泳いでいる。
肉眼ではわかりづらい部分も、目を凝らして、それもルーペを使って見れば、ちょうど水中眼鏡ごしに海中の風景を見ているようで楽しさが倍増する。珊瑚の横を、寒流にいるはずのクリオネや、カバらしき陸上の動物までが泳いでいたり、なぜか洗濯物が物干し竿ではためき、なかには釣り糸を垂らす人も……。愉快な隠れキャラクターを次々と発見するようで少しも飽きない。『池田学画集1』の「1」は、「オンリーワン」という意味だそうだ。たしかにこの画集には、オンリーワンと呼ぶに相応しい作品45点が収録されている。奔放な池田氏の想像力をよりいっそう楽しむためにも、できればこの画集は、ルーペを使ってじっくりと「観察」することをお勧めしたい。